【5分でわかる】書籍「新版イチから知る!IR実務」のポイント

この記事では、書籍「新版 イチから知る!IR実務」を元に、IR担当の基本的な実務について解説していきます。

IRのはじまりは?

1953年にIRは始まったと言われています。当時のアメリカでは第二次世界大戦が終わり、個人の投資マネーが、株式市場に大きく流れこんできた時代でした。しかし多くの主要企業は、個人投資家と良好なコミュニケーションをとることができず、大きな課題に直面していました。

発明家エジソンが創設した、ゼネラル・エレクトリックもその主要企業の1つでした。当時ゼネラル・エレクトリックは、ウォールストリートの銀行や大株主には、事業の将来性や、決算について報告を行なっていました。一方で、個人投資家に対しては、他の主要企業と同様に、何もコミュニケーションをとっていない状況でした。

そこで、ゼネラル・エレクトリックの会長である、最高経営責任者であるラルフ・コーディナーは、広報部に対して「どうすれば、個人投資家ともっと優れた意思疎通を図れるかを検討しなさい」と指示を出しました。

それからすぐに広報部は、「株主とベストの対話を行う方法」「株主が経営と対話する方法」「何が株主のニーズなのか」などの調査を行いました。その結果をラルフ・コーディナーは高く評価し、自社にIR部門を設置することになりました。これが、IRの始まりと言われています。

それから1969年頃には、米国では多くの主要企業がIR部門を設置するようになり、 IR活動が定着しました。一方日本では、この20年でようやくIR活動は浸透し、現在では上場企業にとって必要不可欠な活動になっています。

IR担当者の役割は?

IRとは、Investor Relations(インベスター・リレーションズ)の略であり、企業が株主や投資家向けに経営状態や財務状況、業績の実績・今後の見通しなどを広報するための活動を指します。

IR担当の年間スケジュールはだいたい決まっていますが、具体的な活動内容は企業の置かれている状況で異なります。

異なる状況とは、未上場なのか、上場しているのか、上場企業の中でも創業期なのか、成長期なのか、円熟期なのか、または企業が直面している状況によっても異なります。

しかし、企業がどの状況に置かれていても、 IR活動の目的は共通しています。共通する目的とは、IR活動を通して投資家や株主に対して、投資先を判断する有益な情報発信を行い、自社に対しての理解を深め、自社に期待してもうらうことです。

IR担当が属する部署は?

現在、日本の上場企業ではIRの専属部門を設置している企業もありますが、企業によっては、専属の部門を設置していない企業もあります。

その場合は、下記の部門にIR担当者を在籍させているケースが多いです。

・財務、経理部門

財務、経理部門は決算数値をよく理解していること、そして会社全体の予算管理の責任を担っているため

・経営企画

経営企画では、主に経営戦略の策定を行い、日頃から企業のトップや経営陣と接する機会も多いため

・広報、宣伝部門

広報、宣伝部門はマスコミやマーケティングを担当しているため

・総務部・管理部

総務部・管理部では、株主総会の開催や、株主管理を行なっているため

企業によっては、「広報・IR部門」として部署を設置している企業もあります。社外(株主・投資家・消費者・関連企業・各地域の自治体など)広いステークホルダーに対する情報発信を一体として捉えるコーポレート・コミュニケーションの動きからです。

また、広報部が株主や投資家への情報発信を行い、総務部が株主の窓口となり、株式の実務面を担当している場合もあります。このようにIR活動は、企業によって担当する部署や、役割が異なります。

IR担当の業務内容は?

それでは、IR担当の仕事内容についてです。書籍「新版イチから知る!IR実務」では、IR担当の仕事を大きく4つに分類しています

1 決算関連の仕事
2 株主・投資家との個別面談
3 IRツールの制作
4 情報収集と発信

1つ目の仕事は決算関連の業務です。ほとんどの上場企業は四半期に1回、つまり年間4回の決算発表を行います。

決算発表の流れについてですが、まず決算発表の当日に、東京証券取引所の運営する適時開示情報伝達システムTDnet(ティー・ディー・ネット)に、決算短信が掲載されます。

それから、記者会見、アナリスト・投資家向けの決算説明会、海外向けの決算説明の電話会議といった流れで進んでいきます。IR担当の当日のスケジュールは分刻みになります。

また、それに加えて当日決算発表に参加できなかったアナリストや、投資家向けに決算説明会のハイライトをIRサイトにアップします。何かの都合で参加できなかったアナリストや投資家、メディアは必ずIRサイトをチェックします。

2つ目の仕事は、機関投資家との個別面談の実施です。決算発表の前後で機関投資家と個別に個別面談を実施します。機関投資家には、投資信託や、年金資金、政府系ファンドを運用する企業など、自社にとって大株主であることも少なくありません。

このような機関投資家と限られた日数の中で、複数の個別面談を実施する必要があります。多くの企業は、少なくとも半期決算、本決算の年2回はこのスケジュールをこなしています。

また、近年では個別面談だけでなく、IRデイやアナリストデイと冠して、各事業部責任者が自ら事業の内容を説明するようなイベントを開催している企業もあります。

イベントの参加者は30〜50人程度を小規模の場合もあれば、数千人と大規模なイベントを実施する場合とさまざまです。

3つ目の仕事が、IRツールの制作です。制作物には、制作物の内容は、株主通信やビジネスレターといった名前で株主に送る、小冊子の事業報告書、決算短信、有価証券報告書といったものがあります。

IR担当は、これらの制作物でいくつか記述の面で制作に参加します。制作物や決算説説明会や個人向け説明会の際の使用するプレゼンテーション資料の作成には、IR担当者の力量が問われます。

4つ目の仕事が、情報収集と情報発信です。近年では、決算説明会やアナリスト・投資家との個別面談や電話取材のやりとりをデータ化している企業が増えてきています。

具体的には、多くの企業は3ヶ月単位で、やりとりで交わされたキーワードなどをウォッチして、分析を行なっています。IR担当は、その分析結果と自社や他社について書かれたアナリストレポートを元にレポートを作成し、投資家や株主にとって投資先を判断する有益な情報を発信していく必要があります。

投資家に向けて行う情報発信の方法は?

IR担当は、さまざまな方法で投資家や株主に対して情報を発信していく必要があります。書籍「新版イチから知る!IR実務」では、投資家や株主など外部に向けて行う方法を6つに分類しています。

①有価証券報告書
②決算短信
③事業報告と株主通信
④アニュアルレポート
⑤IRサイト
⑥ソーシャルメディア

①有価証券報告書

有価証券報告書とは、金融商品取引法で規定されている、事業年度ごとに作成する企業内容の外部への開示資料です。投資家や株主は、有価証券報告書は、EDINET(金融商品取引法に基づく有価証券報告書等の開示書類に関する電子開示システム)などを通して閲覧することができます。

②決算短信

上場企業は、四半期ごとに東証のTDnetにアップロードされるもので、決算日から45日以内に開示することが取引所から要請されています。決算短信は即効性に優れているため、株主や投資家、アナリストはもちろんのこと、新聞やテレビなどのメディアからも注目されています。

③事業報告と株主通信

事業報告とは、株主総会の招集通知に添付するものです。招集通知は法に基づく文章で、株主総会前に株主の元に必ず届くため、添付される事業報告に力と入れてる企業も増えています。

また、事業報告とともに年2回、もしくは年4回発行する株主通信に注力する企業も増えています。株主通信は小さな小冊子で、わかりやすく訴求力のあるIR情報を盛り込んでいることが特徴です。

④アニュアルレポート

アニュアルレポート(年次報告書)とは、投資家や株主向けに作成する冊子です。読者は投資家や株主だけに限らず、顧客やメディアなど幅位広い人々が対象です。最も力を入れるべき制作物といっても過言ではありません。アニュアルレポートには、財務ハイライトや配当性向はもちろん、経営者のメッセージなども盛り込まれています。

⑤IRサイト

以前のIRサイトは、決算短信や有価証券報告書などの文書をPDFにしてアップロードするだけといったものでした。しかし時代ともに、自社の IRサイトで多くの情報を展開することが可能になりました。誰でもいつでも閲覧することができるIRサイトは、年々需要を増しています。

⑥ソーシャルメディア

ソーシャルメディアは、ウィキペディアやYouTube、Twitter、Facebookなど企業によって活用方法はさまざまです。英文で投稿できるTwitterでは、リアルタイムで決算発表や株主総会のメモを書き込んだり、写真を添付するなどの情報発信が可能です。

アナリストとの関係構築の秘訣は?

まず、アナリストには、2種類あります。セルサイドアナリストと、バイサイドアナリストです。セルサイドとは証券会社のことを言い、バイサイドとは証券会社から株式や債権を売買する資産運用会社のことです。

つまり、証券会社で働いているアナリストは、セルサイドアナリストになります。

セルサイドアナリストは、上場企業の業容を分析して業績予想出します。そして業績予想から、その企業が「売り」か「買い」か、もしくは「ホールド(継続保有)」なのかを見極めた投資推奨を用意します。

IR担当は、セルサイドアナリストが、企業を調査する際に必要としている情報を、正確に適切な数値を盛り込み伝える必要があります。セルサイドアナリストが企業を調査する際に必要としている情報は下記のようなものです。

・事業展開
(提供する製品・商品・サービスの特徴、マーケットの存在意義と消費者の特徴、ビジネス・スキーム(儲ける構造)の詳細)

・業界動向と競合状況
(マーケットが創出された歴史的背景、マクロ経済とマーケットの相関関係、コンペティターと業界シェアの動向)

・その企業の特徴・強み
(歴史的・風土的な特徴、コンペティターに対して持つ強み、品目・消費者・地域ごとのシェア)

・各部門ごとの販売状況
(中長期的な経営計画、理想的なセグメント別の売上構成比、計画の前提となる出店計画設備投資)

・各部門ごとの収益状況
(営業方針と販売実績の推移、数量・価格別での売上分析、研究開発・生産体制の現状)

・現状意識している課題
(新製品・ノウハウ取得などの開発面、エリア拡大・競合対策などの営業面、社内組織・コスト管理など経営面)

・将来的な経営戦略
(中長期的な経営計画、理想的なセグメント別の売上構成比・計画の前提となる出店計画設備投資・人)

・想定されリスクファクター
(マーケットが頭打ちとなる要因、競合状況の変化と業界シェアの見通し、陳腐化・先行投資などに伴ったリスク、新規参入や新コンペティターの可能性)

・企業グループ
(主な関連会社とグループ内における役割、グループ各社の損益状況と今後の見通し、中長期的に想定している企業グループ像)

IR担当者は、これらの情報に対してすぐに回答できるよう、日頃から情報やデータを整理していおく必要があります。

機関投資家との関係構築の秘訣は?

機関投資家と良好な関係構築を築くためにポイントになるのが、個別面談です。個別面談は、別名「ワン・オン・ワン」とも言われています。

機関投資家との個別面談の進め方は、決まったルールはありませんが、一定パターン化されていています。書籍「新版イチから知る!IR実務」の中では、全米で毎年行われているIR協会(NIRI)で行われた「ワン・オン・ワン」をテーマにしたディスカッションの内容を元に、下記のようにまとめられています。

<個別面談実施スケジュール>
①事前の企画
②面談スケジュールの作成
③事前準備
④個別面談実施
①事前の企画

企画の段階では、自社をカバーしているアナリストの助言を参考にして、自社に対して投資家の関心があるかを問います。IR担当は短い日数の中で、たくさんの個別面談を実施しなければならないためなりません。そのため、関心を持っていない投資家と個別面談をしても時間の無駄になってしまうため、成果には繋がらない個別面談は避ける必要があります。

②面談スケジュールの作成

多くの企業は半期決算の前後に個別面談を実施します。個別面談予約が1日にたくさん入りすぎないようにIR担当はスケジュールを組む必要があります。面談スケジュールには余裕を持たせることが必要で、1日だいたい6〜7回の個別面談が現実的でしょう。

③事前準備

自社の概念や戦略、競争的優位を内容とするハンドアウトを用意する必要があります。事前に送付することで個別面談当日、生産性の高い個別面談を実施することができます。また、誰と個別面談をするのか、投資アプローチ、自社の株式保有なども事前にリサーチする必要があります。

④個別面談の実施

IR担当は個別面談の際の内容を必ず記録します。交わした内容を記録することで、その機関投資家から何を問われ、なぜその質問をされたのかを理解するためです。また、必ず名刺交換を行い、自分がIR担当だと認識した上で個別面談をスタートさせることが大切です。

個人投資家との関係構築の秘訣は?

IRとは、投資家向けの広報活動ですが、投資家は大きく2つに分類されます。1つ目が機関投資家、そして2つ目が個人投資家です。

米国での IR活動は費用対効果の観点から、機関投資家を対象に積極的にIR活動を行います。しかし、日本は個人投資家向けのIR活動にも、とても熱心な傾向があります。実際、上場企業の5社のうち4社が個人向けの IR活動を行なっているとも言われています。

個人投資家が投資先を判断する上で重要視することは、

①投資先の選択とで株主優待券を重視
②長期投資を念頭に置く
③株主投資は企業のことを理解して行う
④幅広い銘柄への分散投資を行う

といったことあります。

その中でも、株主優待券を意識している投資家は、個人投資家の4分の1を占めているというデータが出ています。株主優待券については法的な制度はなく、導入は各企業の自由です。企業は個人投資家に喜んでもらえるように、工夫を凝らし自社製品の贈答品や割引券の配布など、バラエティに富んでいます。

また、優待券を重視する個人投資家においては、短期間のうちに株価が下がっても、長期保有をすることが多い傾向もあります。つまり、長期保有の個人株主は、株価を下支えする役割としても期待できるのです。そのため、各社株主優待券への取り組みに力を入れています。

まとめ

ここまで、書籍「新版イチから知る!IR実務」を元に、IR担当の基本的な実務について解説をしてきました。企業の成長段階や、企業の事業状況によりIR担当の具体的な活動内容は異なります。

しかしIR活動を通して投資家や株主に対して、投資を判断する有益な情報発信をし、自社に対しての理解を深め、期待してもらうという目的は共通しています。IR担当は、日頃から多方面の関係者とのコミュニケーションをとりながら、信頼関係を築いていかなければなりません。

決して簡単な仕事ではありません。しかし、様々な手法で誰の手にも簡単に情報を届けられるようになった今、IR担当の力量が試されるやりがいのある職種です。

参考書籍「新版イチから知る!IR実務」(日刊工業新聞社)